eels『electro-shock-blues』に関して

■「eels」
eelsの『electro-shock-blues』というアルバム、僕はこのアルバムが、僕が知ってるアーティスト達の全アルバムの中でも5本、いや3本くらいかの指に入るくらい好きだ。

このアルバムはバンドのフロントマンであるEという男の数奇な、傍から見て悲劇的な人生と絡めて語られる事が多かった。実際、彼の複雑な、複雑と言ってもなんら差し支えの無い家庭環境だとか、肉親が次々と亡くなっていったようなそんな状況の中発売されたアルバムだったし、当時僕が読んだアルバム評などもそういうトーンだった。また、それも仕方が無い事なのかもしれない。『electro-shock-blues』の曲や歌詞カードには葬式だとか墓石なんかの、直接的なイメージが多く載っている。

「あたしはエリザベス 人生ろくでもないことばかり」、ヤク中女の独白という形を取った歌詞で始まり「もしかして今は 生きるべき時なのかもしれない」という言葉で締めくくられる『electro-shock-blues』は感動的なのだけど、ただ、別に歌詞が素晴らしいってだけじゃあ無い。前述のE自身の境遇に裏打ちされたような、力弱く笑ってしまうような状況を描写する歌詞の秀逸さもさる事ながら、曲や音の気持ち良さには目を見張るものがあると思う。オルゴールの音色等、ノスタルジアを感じずにはいられない音が多用されているこの『electro-shock-blues』に込められた音、それはまるでちょっとした箱庭を想起させる。僕が小中学生の頃、自分の知らない場所に出てしまった時や大きな街に行った時に感じるような、或いは僕が大人になって、午前4時に眠れなかったりふと起きてしまった時に感じるような、閉塞感と浮遊感交じりの箱庭の中にいる感覚。『electro-shock-blues』の音、そこで鳴っているのはアメリカ的な、外国の絵本のような音で自分とはさして関係無い筈なのに。なのに何故かそう感じるのだ。

このアルバムに全体的に流れる穏やかなメロディは心底気持ち良いものだ。そしてそこにEの歌詞がのっかる。それでとても不思議な気分になる。何かふわふわしていて、今何が起こっているかよくわからない、けれどどうやら碌でもない事は本当に起こったらしい、けどまだよくわからないし、もしかしたら、どうにもならないのかもしれない。これを聴いているとそんな事態とか状況を想像してしまう。アルバムの5曲目、『3Speed』に「人生 おかしなもんだ ただし 笑えるおかしさじゃない 変わってるっていうのかな」という歌詞があるのだけれど、僕はこの歌詞に『electro-shock-blues』の内容が集約されていると感じる。多分もしかしたら、すごくシンプルなものなのかもしれないけど、でも明らかに時折、人生とかいうのはおかしく思える。そんな中でも、所々、このおかしな変わってるものと向き合っていこうかなという姿勢が見えるアルバム、『electro-shock-blues』はだから、僕がとても好きなアルバムです。メロディも歌詞も大好きです。